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2018/09/05

農業におけるイノベーション:世界の食料安全保障のために

山田コンサルティンググループ株式会社

土壌や水質の劣化、気候変動、生物多様性の危機などの問題が世界規模で同時に発生していることで、今後人類は食料不足に陥る恐れがある。2050年までに世界人口は100億人に達し、世界の農作物需要は70%増加すると予想される。インドの人口は2022年までに中国を超えて世界最大になるとみられる。農業におけるイノベーションによって、将来、全世界の食をまかなうことはできるのだろうか。

農業の起源

農業を示す「agriculture」という言葉は、古代末期のラテン語の「agricultura」に由来する。「agri」は「land(土地)」、「cultura」は「cultivation(耕作)」という意味を持つ。当初は狩猟採集民だった人類は次第に肥沃な土地で農業を行って定住するようになり、その後動物を家畜にすることも覚えた。

古代オリエント史に登場する「肥沃な三日月地帯(現在のエジプト、トルコ、イスラエル、イラク)」は、最初期の農地として知られる。

農業革命に負の側面がないわけではないが、農業革命は多くの人類に経済的繁栄をもたらした。

21世紀の農業の役割

21世紀に入って農業は劇的な変化を遂げている。新技術の出現によって農業の生産・管理が進化している。
現在新たに興っている農業技術について以下に述べる。

持続可能な生態系

農業は、気候変動の緩和、高栄養価化や持続可能な生活への順応など、現在我々が直面する多くの喫緊の課題に対応する上で重要な役割を担っている。農業の新たな可能性に向けて歩を進めるには、従来の資源を活用するというやり方から、生態系の回復・再生をもたらすやり方へと移行する必要がある。
2005年、ベトナムのラグーンの生態系は、マングローブの伐採、違法な水中構造物の建築、魚の乱獲などによって危機に瀕しており、30万人以上の人々の生活が脅かされる恐れがあった。
問題を解決するために漁業関連の活動が30~40%縮小され、そのおかげで現地の人々の生活が向上し、さらにラグーン資源の持続可能化にも貢献した。

農村地域への投資

農業分野に投資すれば、貧しい農家の所得と食料供給量を増加させることができる。2050 年までに食料需要が70%増加すると予想されているが、この需要を満たすためには800億米ドルの年間投資が必要である。
2017年までに極度の貧困状態にある世界の7.67億人のうち、三分の二は農村地域に住んでいる。一般的に飢饉に見舞われているのはアフリカだというイメージがあるが、実際には世界の食料不足の67%はアジア・太平洋地域で起きている。

新たな研究と教育の動き

科学技術は、農業のリスク回避に貢献しており、この観点から現在必要とされているのは、複雑な生物学的構造を理解するための新たな知識や教育制度である。
例えば、インド政府は2016年、灌漑(かんがい)事業「プラダン・マントリ・クリシ・シンチャイ・ヨジャナ(PMKSY)」 に着手した。また同年、「eNAM」というオンラインポータルを立ち上げ、農家に対して作物を販売するにあたって「eNAM」がベストプライスだとする価格を提供している。
デジタル技術を活かした経済の活性化を目指してインド政権が推進している政策「デジタル・インディア」 では、さらに250万の村パンチャーヤト(Gram Panchayats:インドの最小単位の地方自治体) を高速インターネットでつなぐことを計画している。これによって、生産性が向上し、さらには雇用機会が創出されるだろう。

持続可能な農業のけん引役は?

農業の将来は、ロボットやセンサーの進歩によって現在進行中の農業の技術革命が成功するかどうかにかかっている。資源の有限性および人口増加が、農業のハイテクシステム需要の拡大をもたらしている 。具体的には以下のようなものがある。

センサー

センサーを使用することで農業従事者は土壌の物理的・科学的特性を即座に確認することができる。
例えば、Bonirobは土壌の質、湿度、導電率、緊密度が測定可能な乗用車サイズのロボットで、Boschが保有するスタートアップ企業Deepfield Robotics のドイツ人科学者ら により2014年に開発された。
また、センサーを使用すれば、様々な環境や作物の状況分析や自動的な農地データ抽出による農業支援も可能になる 。このように作物の成長・変更の要件を把握することは、生産性の向上やリスクの低減につながる。

食品バイオテクノロジー

近い将来、ラボで直接遺伝子が操作されて食品が作られるようになる可能性がある。遺伝子操作食品は、遺伝子組み換え食品の派生物であり、世界の飢餓の緩和を目的とするものである。
昨年、約5トンの太平洋産の遺伝子組み換えサーモンの切り身がカナダに輸出され、これによりカナダ人は世界で初めて遺伝子組み換えサーモンを食すことになった。

自動化

あらゆる分野に技術が波及しており、農業も例外ではない。人口増加に伴って、農業におけるロボット需要は大幅に高まっている。
自走トラクター、果実収穫作業ロボット(農業用ロボット)、スマートセンサー、ドローンは、全て農地における技術革新に含まれるものである。
研究者達は現在、ロボットを使用した特定の果実の最適収穫時期の把握に取り組んでいる。これにより、作物の品質を確保しつつ、維持費を最小限に抑えることができる。

微生物

病因物質であるとして嫌われがちな微生物だが、農業では重要な役割を担っている。有機物を使用する農業は、農業バイオテクノロジーの中でも急成長分野である。
例えば、根粒菌などの微生物は空気中の窒素を可溶性硝酸塩に変換して土壌に固定させるため、マメ科植物用の自然農薬の働きをする可能性がある。

有力な新興農業国

農業は、多くの国の経済成長にとって重要な役割を果たしている。かかる国には新興国のみならず、米国やフランスなど農産物の輸出規模が大きく「農業大国」としての誇りを持っている多くの先進国も含む。
2014年、農業部門は世界GDPの約40%を占め、世界の全輸出の43%は農業関連が占めた。一般的に考えられている状況とは異なり、政府からの大規模な支援を享受している米国、フランス、オランダ、ノルウェーなど先進国の食料輸出産業は相当な規模を誇る。
世界の食料輸出に関して継続的に傾注すべき新興国を以下に挙げる。

インド

インドの経済成長に農業は欠かせない。2017年、農業は農村地域世帯の58%にとっての主な生計手段となっており 、農業従事者はインドの労働人口の約49%を占める。
2013年、インドは豆類、米、小麦の生産量で世界1位となり、それぞれ全世界供給量の25%、22%、13%を担った。
しかし、インドの農業生産力は、ブラジル、中国、米国など生産力が世界最大水準にある国々に比べると低い。
とはいえ、インドの(灌漑)農地は世界で2番目の広さを誇る。インドには、世界の主要な全15の気象タイプが含まれ、20におよぶ農業気候地域があるとされる。

米国

2015年の米国の食料・農業関連部門は全GDPの約6%(9,920億米ドル)を占める。
米国農業部門は年間約3,000億米ドルの生産高を誇る(2017年8月までのデータ)。米国の1つの農場が1年当たり165人の食を支えている計算になる。

アフリカ

アフリカでは全人口の70%の生計を農業が支えており(2017年)、GDPの32%超を農業が占める。
アフリカ大陸全土の65%は耕作に適した未開墾地である ことから、投資家にとっては未開拓の成長機会が残されているといえる。
農業に継続的に投資することによって2025年までに、年間輸出収入を約850億米ドル増加する潜在的可能性がある。

中国

中国の人口の45%の主な収入源は農業である。拡大する中国の中間層の食欲は増大傾向にあり、これは中国がカナダにとって米国に次いで2番目に大きい輸出入先であるという事実からもみてとれる。中国は2016年にカナダから約60億米ドル相当の食品および農産物を輸入している。
中国は、2020年までに農業の近代化と食料供給の増加のために3兆元を投じる予定である。

ブラジル

ブラジルの農業部門は2017年に約11%(100億米ドル強)増加したとみられる。さらに、政府は、2017年~2018年の収穫量を押し上げるために、農家への補助金を約20%(約38億米ドル)増やすことにしている。
2013年にブラジル政府は、農産物輸出のスムーズな輸送環境のインフラ整備を行うために46億米ドルの資金も投入している。

農業部門の課題

食料の廃棄は、農業部門にとっての大きな問題である。2017年には世界で13億トンというおびただしい量の食料の廃棄や損失があったと推定されている。2050年までに現在より20億人分多い食料を確保する必要があるにも関わらず、作物育成のために使用できる耕作地として見込まれている増分はわずかに40%である。つまり、農業の生産性向上を図れるかどうかは人類にとって文字通り生きるか死ぬかの問題なのである。
具体的な課題としては以下が挙げられる。

低成長

世界人口は、2050年までに20億人以上増加することが予想されている。これによって、水不足、土壌侵食、気候変動などに起因して農地の劣化が起こる可能性が高い。
農業従事者は、技術革新を通じて食料安全保障を確保するために、イノベーションに対してさらに積極的な態度で臨む必要がある。

不安定な市場価格

2018年の農産物(食料および原料を含む)の価格は、世界的に需要が供給を上回ることで約1%増加し、これに伴って穀物、ミール(穀物を引き割って粉にしたもの)、石油の価格が上昇すると予想されている。

環境問題

食料安全保障に対する懸念が高まる中、大気汚染、森林伐採、水質汚染、単一栽培(モノカルチャー)、化石燃料、二酸化炭素排出といった環境問題を克服するためにさらなる配慮が求められる。
2017年だけで、米国では2.6億エーカー、南米アマゾンの熱帯雨林地帯では1億ヘクタールもの土地が、新たな農地用に開墾されている。

農業の展望

食料の生産量や流通量の増加、入手状況の改善をもたらすための何らかの適切な策が講じられなければ、2030年までに6億人が栄養不足に陥る可能性がある。

小売、ホテル、タクシーなど多くの従来型産業に対して、新たな技術が試練と改革をもたらしている。自動走行トラクター、センサー、ドローン、GPS、農業管理など今後発展が予想される新技術によって、今や農業も同様の試練に直面する状況にある。

持続性を確保するためには農業従事者は規模を拡大する必要がある 。ただし、ロシアや中国が1世紀前に経験から 学んだ通り、生産性や収量の改善には農業の統合が不可欠ではあるものの、それのみでは不十分である。 

農業従事者は古いステレオタイプから脱却し、農業の技術革新を取り込むことで、スキルやテクニックを更新する必要がある 。現在いかに多くの産業が技術革新によって試練にさらされているかを考えれば、世界の農業部門も今後変革を受け入れるようになるだろう、というよりむしろ受け入れざるを得ないだろうということは、誰の目にも明らかである。

Spire Research and Consulting Pte. Ltd.

(山田コンサルティンググループ株式会社子会社)

Spire Research and Consulting Pte. Ltd.

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