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2012/08/10

アジア進出におけるリードタイムの短縮の重要性

山田ビジネスコンサルティング(株)

今回のテーマは全体最適です。アジアに進出し、アジアの現地法人を持っている企業は、進出先各国・各地域の現地法人と日本の親会社とで、一つの企業グループを形成しています。その企業グループ全体の儲けを追求するためには、企業グループの全体最適を追求する必要があります。
海外に現地法人を持っているかどうかに関わらず、また、複数の企業により企業グループを形成しているかどうかにかかわらず、多くの企業組織では、組織のトップが全体最適の重要性を強調しています。その背景には、部分最適の追求が必ずしも全体最適の追求に結びつかない、部分最適の総和が必ずしも全体最適とならない、という事情があります。しかし、実際には全体最適の実現に向けて、各人・各部門・各企業が一丸となって行動しているケースはとても少ないように感じます。多くの企業・企業グループでは、各人・各部門・各企業が各々の部分最適に向けて邁進していると感じます。そのような状況であるからこそ、企業・企業グループのトップが、殊更、全体最適の重要性を強調しなければならなくなっているのです。
ここで、部分最適が全体最適と矛盾しているケース、アジアのX国とY国に製造現地法人を持つ日本企業A社のケースを紹介しましょう。

1.A社のケース

A社は、日本国内の消費者向けに消費財を製造している会社で、モノの流れは、次のようになります(下図参照)。まず、X国の現法X社が、X国で、原材料を調達・加工し(一次行程)、次に、その中間製品をY国の現地法人Y社に送り、Y社にて最終製品を完成させ(2次工程)、日本の親会社A社に送る。A社は最終製品を問屋に販売、問屋がこれを小売店に販売し、小売店の店頭に並ぶという流れです。

<A社グループのモノの流れ>

A社グループのモノの流れ

※図中の番号は次の表<リードタイムの内訳>の番号に対応

A社グループが、X国で原材料を調達してから、最終製品を日本の問屋に販売するまでの期間(リードタイム)は約4.2ヶ月です。A社製品は、流行りすたれがあまり無い製品ですが、それでも約4.2月先の需要予測は困難であり、製品の売れ残りと欠品が同時に発生している状況にあります。そして、同社グループは、資金繰り逼迫・過大借入状況に陥っています。
何故、リードタイムがこんなに長くなってしまうのでしょうか、以下の表で、リードタイム4.2ヶ月の中身を見ていきましょう。

<リードタイムの内訳>

リードタイムの内訳

番号2の製造に要する期間は合計で0.2ヶ月に過ぎません。対して、それ以外のプロセスには4.0ヶ月もの期間を要しています。この4.0ヶ月間は完全な手待ち時間、つまり何の付加価値も産み出していない時間です。アジア通信第三回で述べました、工場という局地戦では善戦するも、伸びきった兵站が勝利を困難にしているという状況です。
何よりも目に付くのが、番号④のY社における「X社からの中間製品受入れから二次工程投入まで」の期間2.0ヶ月です。何故、2.0ヶ月間もの期間がかかっているのでしょうか。その原因は部分最適行動です。現状X国の現地法人X社の損益はほぼゼロです。これ以上、生産数量が下がると、X社は赤字に転落することになります。そこで、X社は、赤字転落を防止するため、Y社に中間製品在庫が積み上がっていることにおかまいなく、生産数量を増やし、せっせとY社に納品し続ける状況が続いています。
このようなX社の行動は、X社の赤字転落を防止していますが、A社グループ全体のキャッシュアウトを増加させています。つまり販売に結びつかない原材料を仕入れ、中間製品在庫として資金を固定化させてしまっているのです。Y社に押しつけられ、Y社で計上されることになった中間製品在庫は、遅かれ早かれ、安値販売、最悪廃棄しなければならない可能性があり、そのような場合には、グループ全体の損益を悪化させることになります。つまり、X社は部分最適を追求し、結果、全体最適を犠牲にしてしまっているのです。
このようなX社の部分最適行動に対して、全体最適を無視したX社のエゴだ!けしからん!X社のトップの意識は低い!と断ずることは容易ですが、X社のトップの意識レベルで解決できるほど、この問題は簡単ではありません。といいますのは、部分最適がまかり通っている企業・企業グループの多くでは、各部門・各社のトップはもちろん、その企業・企業グループのトップも、全体最適の具体的な内容をイメージ出来ていないからです。

2.全体最適とは

ここで改めて、全体最適という言葉の意味を考えてみましょう。全体最適とは、アジア通信第二回で紹介いたしました”商売の基本サイクル1”が淀みなく高速回転している状態のことをいいます。このサイクル上の、創る⇒作る⇒売る、という一連の業務は、マーケティング・企画・開発・設計、製造、営業部門の他にも、購買、物流、経理、総務部門などの複数の部門により、複数の部門をまたがって行われていますが、このサイクルを淀みなく高速回転させるためには、各部門の個々の業務の処理速度の速さよりも、各部門の業務の相互連携が重要となります。
特に、商売の基本サイクルが日本の親会社と海外現地法人・海外現地法人間にまたがる場合には、各組織が地理的に分断されている結果、各組織の相互連携が困難になります。また、そうであるからこそ、各組織相互の連携による全体最適の追求が一層重要となります。

<商売の基本サイクル>

商売の基本サイクル

<日本の親会社・各国の現地法人をまたがる商売の基本サイクル>

日本の親会社・各国の現地法人をまたがる商売の基本サイクル

1「V字回復の経営―2年で会社を変えられますか」 (日経ビジネス人文庫 三枝 匡 2006/4 ハードカバー版は2001/9)。

3.企業活動はムカデ競争である

全体最適を理解するイメージとして、大変著名な「ザ・ゴール」2のハイキングのたとえ話がありますが、ここでは、日本人にとって、より馴染みのあるムカデ競争にたとえてイメージしてみましょう。
ムカデ競争で勝つために、最も重要な要素は、ゴールに向けたメンバーのチームワーク、つまりゴールに向け足並みを揃えることです。一人一人の脚力ではありません。
ムカデ競争では、チームメンバー全員が一つのゴールに向けて歩く必要がありますが、ここでのゴールはメンバー全員にとって明らかです。対して、企業活動においては、ムカデ競争ほど目指すべきゴールが明らかではありません。なので、ムカデ競争以上に、ゴールを明確に設定して、そのゴールの位置・方向をメンバーに指し示す、リーダーの存在・リーダーシップの発揮が重要となります。
また、あるメンバーだけが速く歩いても、ムカデ競争チームは倒れるだけで、前には進めません。同様に、営業部隊がモノをどんどん売っても、モノが製造されていなければ、結局は売ることはできません。製造部隊がどんどんモノを作っても、売れなければ、在庫の山が高くなるだけです。ムカデ競争では、各メンバーの足並みを揃え、淀みなく前に進むためには、「おいっち、にっ、さんっ、しっ」などのかけ声が必要不可欠です。企業活動においても、このかけ声を発するマネージャーが必要であり、また、かけ声を発するための情報システムも必要です。
ムカデ競争の勝利は、ムカデ競争チーム全体の勝利です。企業活動においても、グループ全体の儲けへの貢献に対する評価が必要です。各部門・組織の評価が、各部門等単体の儲けだけを基準に行われているのであれば、結局は、各部門等は部分最適行動に走り、全体最適はお題目で終わってしまいます。

地域・国をまたがる企業グループの全体最適を実現するためには、海外現地法人と日本の親会社を横断する強力なリーダーが必要です。リーダーは、自社グループの全体最適につき具体的なイメージを持つ必要があります。
次回アジア通信では、商売の基本サイクルの高速回転、つまりトータルリードタイムの短縮に向けた具体策をテーマといたします。

2「ザ・ゴール ― 企業の究極の目的とは何か」(ダイヤモンド社 エリヤフ・ゴールドラット(著), 三本木 亮 (翻訳)  2001/5

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