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2013/10/07

フィリピン進出に際して抑えておくべき基本情報

山田ビジネスコンサルティング(株)

前回は、80年代から97年までのフィリピンの経済状況・経済停滞の原因を概観いたしました。停滞の最大の原因は、83年の対外債務危機以来の経済・政治両面での混乱が約10年に亘って続き、この間に、海外からの直接投資を呼び込むことが出来ず、産業の発展が遅れてしまったことにあります。
現在は、フィリピンの政情は安定し、また、フィリピン政府は輸出産業を積極誘致する方針・施策を採用しており、海外からの投資を呼び込む環境は整っているといえます。実際に、近年、フィリピンへの直接投資額は増加傾向にあり、日系企業の大型進出も相次いでいます。
今回は、まず、フィリピンの今後の経済成長の道筋を考え、つぎに、中堅中小企業進出に際しての留意点を考えていきます。

1. フィリピン経済成長の道筋

(1)海外からの直接投資・輸出産業の発展

97年以降の動向を見ていきましょう。前回は、フィリピン経済とタイ経済の比較を行いました。しかし、現在では、フィリピンとタイの経済格差が大きくなりすぎて、タイとの比較が困難になっていると考えます。そこで、今回は、フィリピンをベトナムと比較することにいたします。フィリピンは、人口約96百万人、名目GDP約25百億ドル、一人当りの名目GDP約2,600ドル、ベトナムは、それぞれ、約88百万人、 12百億ドル、1,500ドル強です*1(12年)。ベトナムの経済規模と豊かさは、フィリピンの半分程度です。
以下のグラフは97年以降のフィリピンとベトナムへの直接投資額の推移です。海外からの直接投資は途上国における産業発展・経済発展の牽引車となっています。
フィリピンへの直接投資額は、06年までベトナムとほぼ同程度で推移してきましたが、07年からベトナムに大きく引き離されています。フィリピンへの直接投資額は11年・12年と増加傾向にありますが、それでもベトナムの大幅な増加に比べると、どうしても見劣りしてしまいます。日本からベトナムへの直接投資も06年以降増加傾向にあり、11年以降に急増しています。ベトナムと比較するとフィリピンへの直接投資額の伸びに力強さはありません。
ベトナムへの直接投資額が増加している大きな要因が携帯・スマホ工場の進出です。09年に韓国のサムスン電子がベトナム(北部バクニン省)に進出し、翌10年から携帯・スマホの生産を開始しています。また、13年にはノキア(フィンランド)の携帯・スマホ工場も北部バクニン省に進出しています。

*1 ジェトロ資料より

世界からの直接投資額推移
(国際収支ベース 単位:百万ドル)

Inward foreign direct investment flows, annual,
1970-2012 UNCTAD, UNCTADstatより筆者作成

日本からの直接投資額推移
(国際収支ベース 単位:百万ドル)

ジェトロ資料より筆者作成

フィリピンは、輸出額についても、08年にベトナムに抜かれ、以後その差は広がりつつあります。特に注目すべきは11年以降です。上述のサムソン進出による携帯電話・スマホの輸出額の急増が、ベトナムの輸出総額を押し上げています(電子関連製品輸出額のうち、11年の携帯・スマホ輸出額は69億ドル、12年は127億ドル)。

輸出額の推移(単位:百万ドル)

Values and shares of merchandise exports
and imports, annual, 1948-2012
UNCTAD, UNCTADstat より筆者作成。

電子関連製品 輸出額の推移(単位:百万ドル)

フィリピンは国際収支ベース。The Bangko Sentral ng Pilipinas
BALANCE OF PAYMENTS(国際収支統計)から筆者作成。
ベトナムはFOB べース、ジェトロ資料から筆者作成。

フィリピンは、97年以降も、他のアジア諸国の後塵を拝している状況にあります。また、海外からの直接投資額が少ないことに加え、貯蓄率が低いことも、フィリピンで産業が発展しない原因といわれています。フィリピンの2012年の貯蓄率は15.84%*2にすぎません。

*2 世界銀行 Gross domestic savings (% of GDP)より。ちなみに同年のタイは34.1%、インドネシアは37.11%。

(2)BPO産業

まず、フィリピンのBPO産業を概観しましょう。BPO産業とは、Business Process Outsourcing のことで、その内容は、コールセンター、ソフトウエア開発、Eラーニングなどのサービスの提供です。
BPO産業は、アロヨ大統領(98年~10年)政権下、特に、第二期中期開発計画(04年~10年)において、強力に推し進められることになります。
以下の表は、BPO産業の総売上と雇用者数の推移です。04年に売上13億ドル、雇用者数9万4千人に過ぎなかったBPO産業ですが、11年には、121億ドル・68万人に急成長しています。この表には掲載されていませんが、12年の売上は134億ドル(対名目GDP比5.4%)、雇用者数は78万人に達しています。

BPO産業の売上・雇用者数推移

The Bangko Sentral ng Pilipinas  Survey of IT-BPO Services

BPO産業売上の多くは、輸出によるものです。相手先国別の輸出額とシェア(2011年)は以下の表の通りで、多くが米国向けです。公用語が英語であるという強みが活きているといえそうです。

BPO産業 相手先国別輸出額・シェア(2011年)

The Bangko Sentral ng Pilipinas  Survey of IT-BPO Services

また、BPO産業は製造業と比べると投資額が少なくて済みます。直接投資の少なさと貯蓄率の低さが、フィリピンで産業が発展しない原因といわれていますが、BPO産業では、製造業と比べて、直接投資の少なさと貯蓄率の低さが、発展の足枷にはなりづらいといえるでしょう。
アキノ大統領は、BPO産業の今後の見通しにつき「2016年までには250億ドル産業に成長、130万人の雇用を生むと予測されている。」と述べています*3。

*3 ジェトロ資料より

(3)OFWからの送金収入

OFWとは、フィリピンから海外へ出稼ぎに行っている労働者(”Oversea Filipino Worker”の略)のことです。フィリピン総人口の約10%・労働力人口の24%*4である約1,000万人がOFWとして海外で働いています。
OFWのフィリピン国内への送金額は年々増加傾向にあり、2012年は約180億ドル(国際収支ベース)になります。なお、OFWからの送金は、フィリピン国外で生産された付加価値を源泉とするため、フィリピンのGDPの構成要素にはなりませんが、フィリピン国内への消費に回ることを通じて、フィリピンのGDPを押し上げています。

*4 労働力人口4,100万人 2013 年1 月時点 JBIC資料より

(4)BPO産業・OFWからの送金収入のフィリピン経済における存在感

BPO産業とOFWからの送金収入は、フィリピン経済において大きな存在感を示しています。
以下のグラフは03年以降のフィリピンの電子産業、BPOサービスの輸出額とOFWからの送金額の推移です。
電子産業の輸出額は08年・09年に落ち込み、10年にはいったん回復しますが11年から再度下降することになります。11年からの下降の原因は、ユーロ危機等の影響です。他方、BPOサービス輸出額とOFWからの送金額は順調に伸びています。しかも、リーマンショック前後を通じて上昇傾向を示しています。既に、これらの金額は、フィリピンの主要産業と言い得る水準に達しています。

電子産業、BPOサービスの輸出額とOFWからの送金額
(国際収支ベース 単位:百万ドル)

The Bangko Sentral ng Pilipinas BALANCE OF PAYMENTS(国際収支統計)から筆者作成

BPOサービス輸出額とOFWからの送金額は外貨獲得能力において、電子産業を上回っています。以下は03年以降の国際収支の推移です。国際収支は、国を企業に例えると、その国の資金繰りを表します。フィリピンでは、貿易収支が一貫して赤字、直接投資額が少額であることが特徴的です。
それでも、フィリピンの経常収支は一貫して黒字です。つまり、海外からの直接投資に頼らずに資金繰りが回っているのです。これは、BPOサービス輸出額とOFWからの送金額が、貿易赤字を補填しているからです。12年の貿易赤字額は148億ドルですが、BPOサービス100億ドル弱(純輸出額)、OFWからの送金額180億ドル弱と、この二大産業が、フィリピンの貿易赤字を補填し、資金繰りを支えているのです。もちろん、電子産業の輸出額も大きな割合を占めているのですが、電子産業は、原材料の多くを海外から輸入していますので、BPOサービスやOFWからの送金額と比べると、外貨獲得能力は高くないと言えます。
他国との比較においても、フィリピンの経常収支は安定的であるといえます。インドネシアは12年に約242億ドルの経常赤字、ベトナムは同年37億ドルの経常黒字ですが、10年までは経常赤字が続いていました 。

*5 ジェトロ資料より

<国際収支の推移 (単位:百万ドル)>

The Bangko Sentral ng Pilipinas BALANCE OF PAYMENTS(国際収支統計) から筆者作成

(5)国内市場の成長・国内市場向け産業の発展

マニラの巨大ショッピングセンター「モールオブエイジア」内の
ユニクロ 2013年5月筆者撮影

フィリピン経済の特徴は、個人消費の割合の高さです。2012年のフィリピンのGDPに占める個人消費の割合は70%に達しています。ちなみに、インドネシアは55%、タイは52%です。
個人消費の割合の高さは、貯蓄率の低さとコインの裏表の関係にあり、海外からの直接投資の少なさと共に、フィリピンの産業発展が遅れている原因の一つといわれています。
しかし、今後のフィリピンの経済発展において、貯蓄率の低さは従来ほどの制約にはならないと考えることが出来ます。OFWからの送金収入はもちろん、BPO産業も、製造業と比べると投資額が少なくて済みますので、貯蓄率の低さが産業発展の制約にはなりにくいからです。
また、所得に対する消費の割合の高さは、経済規模に比べて、消費市場が大きいこと、経済全体の成長率に比べて個人消費の伸び率が高いことも意味します。
以上により、フィリピンの場合、他の途上国のように、直接投資や貯蓄による投資というプロセスを経ずに、BPO産業の発展・OFWからの送金収入⇒ 所得水準(購買力)の向上 ⇒ 国内市場の成長、というユニークな成長シナリオを辿る可能性があります。
言い換えますと、産業発展から消費市場の成長までのタイムラグが短い、更には、輸出型製造業の発展に先行して、国内の消費市場や内需型製造業その他の内需型産業が発展する可能性を持っていると言えそうです。また、BPO産業から派生する知識・知能集約型産業の発展可能性も持っていると言えそうです。

2. 中堅中小企業進出に際してのポイント

(1)最終消費者に自社の商品等を販売するために進出する場合

フィリピンは、経済規模・所得水準に比べて、消費が旺盛で、小売市場の規模が大きいといえます(以下の表参照)。

各国の小売市場規模

「世界国勢図会 2013/14年版―世界がわかるデータブック」(矢野恒太記念会)、ジェトロ資料より筆者作成

フィリピンの流通形態は、他の東南アジア諸国同様、いわゆる伝統市場(個人零細商店など)が相応のシェアを占めている、全国を網羅する卸売業者が無いなど、日本と大きく異なります。
そのため、サービス業・小売業・最終消費者向け製品のメーカー等が、フィリピンの最終消費者に自社の商品等を販売するためには、消費者の購買力・嗜好だけでなく、フィリピン特有の流通形態、流通の各段階や各地域におけるプレイヤーの顔ぶれ・強み・弱み・属性・特徴を把握しておく必要があります。また、流通の各段階におけるその商品の価格(競合の卸値なども)等を把握しておくことも必要です。
現地独特の流通形態の把握に加え、効果的・効率的な店舗の取得・開発等や外資規制の観点からも、フィリピンの消費市場を目指す場合には、良い現地パートナーと組むことが必要・重要と考えます。

(2)製造拠点として進出する場合

製造拠点として進出する場合であっても、フィリピンの内需を取り込むことがポイントと考えます。

日系企業の現地調達比率

ジェトロ 在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012年度調査)
2012年12月18日より

フィリピンでは、産業集積がまだ進んでおらず、現地調達比率が低い状況にあります。また、フィリピンは、島嶼国家であり、周囲を海で囲まれています。これらの観点から、フィリピンは、輸出のための製造拠点としては、他の東南アジア諸国と比べると不利なポジションにあると考えます。
他方、フィリピンの国内市場は、人口動態、BPO産業・OFWからの送金を通じた購買力の向上により、高い成長性を持っていると考えます。
そのため、輸出(または輸出企業に納品)のための製造拠点として、フィリピンに進出する場合であっても、将来的にフィリピンの内需を目指すことが望ましい方向性と考えます。また、現地拠点において、マーケティング機能・営業機能を持つことが重要です。
なお、フィリピンの失業率は高く(12年 7.0%*6)、そのため、人件費の伸び率が低いという特徴があります。失業率が高いのは、産業が未発達で国内の雇用機会が少ないことが要因です。しかし、今後もフィリピンの人件費の伸び率が低いまま推移するとは思えません。BPO産業や内需型産業の発展による雇用機会の増加を見込むことが出来るからです。

*6 ジェトロ資料より

ワーカー(一般工職)月額基本給

ジェトロ調査(2012年12月~2013年1月)より

賃金対前年ベースアップ率

ジェトロ資料「在アジア・オセアニア日系企業活動実態調査(2012年度調査)
2012年12月18日」より

他国同様、フィリピンでも安い人件費だけを目指す進出は危険です。製造業の場合でも、内需の増加を自社の売上増加に取り込み、上昇する人件費を吸収する、というサイクルを回していくことが必要です。

フィリピンは、BPO産業・OFWからの送金収入を牽引車とする経済発展の可能性を持っています。フィリピン進出成功のためには、フィリピンのユニークな成長サイクルに乗ることが重要です。

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